(寄稿文)
いつも江古田へ通うために徒歩30分間の時間をかけなければならない。運動不足の解消に丁度良い。最近の通う頻度は週1回程度になっているが、時間の余裕があった時期は週3回程度通っていたように思う。なぜ江古田から若干距離のある場所に住んでるのかと言えば、それは不動産屋の策略としか言いようがない。
埼玉と練馬の意外な共通点
練馬区に住まいを移してから4年以上になる。元々、埼玉県さいたま市に住んでいた私にとって、練馬区と地元とには雰囲気に妙な共通点を感じられ、そこそこ居心地が良い。埼玉県南部の発展している地域と練馬区とはテナントビルと人口密度以外に然したる違いは無いように思える。
道幅も似たり寄ったり、集合住宅の数も近い。特に夜になると街並みの雰囲気がとてもよく似ている。他にも、私はかつて勝手な偏見を持っており、都内に団地はほとんど無いものかと思っていた。団地というものは新興都市にあるもので、都内の団地は消滅して久しいのだろうと。しかし実際には、私の住む町には中規模から大規模までの団地が複数密集している。団地育ちの私にとって、これこそが練馬区に最も親近感を抱く理由となっている。
引越しの決め手
思えば、私が練馬区に引っ越してきた理由とは、既に練馬区に住んでいた友人に誘われたからだった。当時学生だった私は丁度独り立ちしたいと思っており、親と話をつけ、金をかき集め、5万円台の賃貸に移り住んだ。元バンドマンの私が選んだのは楽器演奏可の物件だった。これも偏見だったが、都内の賃貸は6万円以上の家賃を払わなければならないものと思っていた。しかし、実際には賃料5万円台や4万円台の物件も多くあった。私の住む部屋は5万円台である。
楽器演奏可の物件で5万円台は破格だと思う。聞けば、江古田をはじめ練馬区には音大や芸術系大学・専門学校が密集している関係で、安い楽器演奏可の物件が大量にあるという。本当かは知らないが、密集率で言えば日本一のレベルらしい。女性専用物件に至っては、5万円以下で楽器演奏可の物件に住めるケースもあるらしい。興味のある人はぜひ調べてみると良いだろう。
住民の入れ替わりによる変化
4年以上も住んでいれば、当然隣人の入れ替わりを多く経験する。楽器演奏可とは言ったものの、私の物件は完全防音ではなく隣人の練習音が漏れ聞こえる。最初に住んだ時の隣人たちは、両隣共にホルン系の奏者だった。ホルンの音は壁をとてもよく突き抜ける。耳栓をしなければ本が読めない。床下からはエレキギターとポップスの歌声が聞こえた。玄関を出て階段を歩くとピアノとバイオリンの音が聞こえる。雨の日にはショパンが聞こえた。
隣人たちは入れ替わり、一時期は私一人しか住んでないと錯覚するような時期もあった。それでも時が経てばまた新たな住人が加わる。最近は熱心に発声練習をする人が引っ越してきた。その練習姿勢はとても素晴らしく私も感化されてしまった。自分の声を磨こうと思い最近はシャワーを浴びながらホーミーを練習している。きっと喧しく思われているだろうが、それはお互い様なのだ。私も許しているのだから、隣人にも許してもらいたい。
変化への対応
人の移り変わりとは中々自覚出来ないものの、実際は頻繁に起こっているものだ。私を練馬区に誘った友人も私と入れ替わるように引っ越してしまい、今では疎遠になってしまっている。江古田で合わせる顔ぶれもいつの間にか変わるものだ。最近はまた仲の良い友人が一人、江古田から離れたと聞く。変化とは淡々と受け入れるべきものだ。
余分な歓迎や悲嘆とは無縁に、ただあるがままにそれを認める他ない。ちなみに私はあと2年程滞在する予定である。その間ずっと、隣人と許し許されの関係を無言のままに続けるのだろう。そして江古田に至る30分の面倒くさい道のりを毎週歩くのだ。我慢していると思ったらストレスに負ける。淡々と受け入れるんだ、我慢じゃないよ。