【書籍レビュー】「帰ってきたウルトラマン」の復活

2024/03/03

はじめに

この本は、映画研究家の白石雅彦氏が書いた、円谷プロのドキュメンタリーです。
円谷プロといえば、ウルトラマンシリーズで有名な会社ですが、そのウルトラマンシリーズを制作しているときの出来事を時系列にまとめた、言ってみればメイキングみたいなものです。
製作当時、日本ではどんな出来事があり、円谷プロはどのような状況で、何をしていたか、かなり詳細にまとめられており、とても臨場感があります。

このドキュメンタリーは、過去に4冊が発売されています。
・「ウルトラQ」の誕生
・「ウルトラマン」の飛翔
・「ウルトラセブン」の帰還
・「怪奇大作戦」の挑戦

この〈「帰ってきたウルトラマン」の復活〉は、本シリーズの5冊目にあたり、その名の通りウルトラシリーズ第4弾である「帰ってきたウルトラマン」放送当時のドキュメンタリーとなります。

表紙は、第5話「二大怪獣 東京を襲撃」のラストシーン、地底怪獣グドン(写真左)と古代怪獣ツインテール(写真右)に挟撃され、危機的状況にあるウルトラマンの写真が使用されています。
写真のチョイスが実に「帰ってきたウルトラマン」らしく、思わず劇中の映像が脳内に甦るほどに本文への期待が高まります。

プロローグ 冬来たりなば

ウルトラQ・ウルトラマンが放送する1966年から、「帰ってきたウルトラマン」の企画が立ち上がる1969年までをおさらいし、簡単にまとめた章です。
簡単にまとめたと言っても、その当時の出来事(事件であったり流行であったり)がかなり詳細に記述されており、とにかく情報量が多く、その当時を体験するか、よほど昭和の歴史に関心があるなどでもしないと何が書いてあるのかサッパリという印象。

並行して、当時の円谷プロの状況についても解説があるのですが、「ウルトラセブン」でウルトラシリーズが一旦終了し、新たな特撮番組を模索していくも、上手く行かずにスタッフが心境の変化で散り散りになっていくサマ、創設者の円谷英二氏が逝去する展開など、不穏な空気が漂い、読み進めていくのが苦しい場面も多々ありました。
時系列でまとめられているからこそ、円谷プロの置かれている危機的状況を肌で感じることができ、ただ歴史を紐解いているだけなのに感情移入してしまう、不思議な感覚がありました。

第一部 春の兆し

ウルトラマン復活を望む巷の声を受け、「特撮怪獣シリーズ 続ウルトラマン」の企画が立ち上がり、サンプルストーリーや設定が練られていく過程をまとめた章です。
章のほとんどが最初期の企画内容の引用でできており、現在世に出ている「帰ってきたウルトラマン」と比較して、その違いを楽しむことができます。
最も、当初の企画内容自体は過去の書籍でも度々触れられているので目新しい情報というわけではありませんが、その過去の書籍自体が現在では入手不可能であることと、本誌でまとめられている企画内容がより詳細であることから、新旧のファン問わずとにかくありがたい情報源となっている事は確かでしょう。

第二部 ウルトラマンが帰ってきた

この章では、「帰ってきたウルトラマン」のメインライター、上原正三氏のシナリオライターとしての経歴、放送開始までの流れ、番組第1クールの振り返りが行われています。
ここで上原氏の経歴が回想されるのは、第1クール14話のうち、計11話のシナリオを上原氏が書いている都合、作家性と関連付けた解説がしやすいことと、後半になるにつれシナリオを担当する回数が減っていくからでしょう。

第1クールの振り返りもかなり詳細で、満足度が高いです。
特に、物語の導入となる第1話「怪獣総進撃」と、第2話「タッコング大逆襲」。そして、初期エピソード中盤のヤマ場となる前後編、第6話「二大怪獣 東京を襲撃」&第7話「決戦!怪獣対マット」は、かなりのページ数を割いており、沖縄出身の上原氏の生い立ち・人生観も踏まえて深堀した解説は読みごたえ抜群。

他のエピソード群については、第3話「恐怖の怪獣魔境」、第4話「必殺!流星キック」、第8話「毒ガス怪獣出現」あたりがやや細かく解説されていた印象があります。

しかしながら、「帰ってきたウルトラマン」第1クールは、レギュラーキャラクター同士の人間関係の軋轢を描いた結果、ギスギスした作風となり、本来の視聴者層が離れてしまった事。怪獣デザインが似通ってしまった事。ミニチュアセットの予算を抑えるため、ロケーションを山中に設定したことにより画面が地味になった事などの要因で視聴率に苦戦した事がなかなか辛辣にも感じてしまうぐらい解説されており。ファン心理的に思わず擁護してしまいそうな要素に対しても心を鬼にして真摯に向き合っている事が感じられます。

放送から何十年も経った現在、映像ソフトで「帰ってきたウルトラマン」を過去の名作として楽しんでいる私の身では想像できない事態であったことがわかり、新鮮な章でした。

第三部 復活と円熟

この章では、番組に途中参加したスタッフや、出版社の状況を掘り下げをしながら、第二クール、第三クールをどのようにして乗り切ったか、どのようなエピソード群だったかを回想します。

ここで名前が上がっているスタッフは、第15話から参加の山際永三監督、脚本は第18話から参加の市川森一氏、第20話から参加の石堂淑朗氏。それぞれ初参加の経緯や担当したエピソードを踏まえながらの解説になっているので作風がわかりやすくなっていました。

山際監督が「帰ってきたウルトラマン」に参加するにあたって、これまでのエピソードを徹底分析した話や、市川森一が「帰ってきたウルトラマン」特有のホームドラマやスポ根の要素は書かない事を了承してもらった話。石堂氏が円谷プロの脚本料が高かったので渡りに船で参加した話など、なかなか面白い事が書かれていました。

その次は、小学館の若手社員で構成された意見交換チームについての解説。
怪獣が映像の何分頃に登場して、ウルトラマンが何分頃に変身して、戦闘シーンが何分あるかで視聴率が決まる、という怪獣係数なる数式を作って発表したら円谷プロのプロデューサーにものすごい怒られた、というくだりがあり、この辺りは本誌の中で一番面白かったです。

ひととおりの人員解説が終わったあとは、第2、第3クールのエピソード解説。文字数を多く割かれていたのは、第22話、第25話、第31話、第33~35話、第37~38話と言ったところ。特に第31話以降は名作とされる回が続くので文字数が増えるのも納得するところ。もっとも、他のエピソードについても文字数が少ないだけで軽く要点だれは触れられている印象があり、満足度は高いです。

第四部 帰ってゆくウルトラマン

ここでは前段として、「帰ってきたウルトラマン」の第3クール頃に放送が開始された「ミラーマン」についての解説が行われています。

「ミラーマン」の放送開始は1971年ですが、それ以前の1969年頃には企画として既にその名前があり、「帰ってきたウルトラマン」とは兄弟分のような作品となります。
円谷プロ製作のヒーローでありながら、ウルトラシリーズとは別カテゴリーである都合、必然的に触れられる機会は少なくなってしまうものの、この時代背景を語る上では無くてはならないヒーローであるので、ここで取り上げられているのは嬉しかったです。

ミラーマンの解説は、総合的なページ数で見ればオマケのような扱いではあるものの、ページ数も想像より多く、企画の立ち上げから放送までの流れ、同時期に放送していた番組や、当時の出来事などが細かく記述されており、満足度の高い内容となっています。

「ミラーマン」の解説を終えてから、「帰ってきたウルトラマン」第4クールの解説がはじまります。

エピソード解説ほほとんどが網羅されており、第二部で拾い切れていなかった第2、第3クールのエピソードも補足で解説されるなど、なるべく多くのエピソードに触れておこうという気概を感じました。
世間的にはマイナーとされる回でも、番組のファンにとってはかけがえのない一本でもあるので、とにかく嬉しいです。

エピソード解説にページ数が割かれているのはやはり最終回です。初期稿と完成作品の相違点など細かい比較を踏まえながら、最後はウルトラ五つの誓いで締められました。

しかし、メインライターの上原氏はウルトラシリーズに対して出せる手は尽くしたと言うか、そんな感情があったようで、最終回でМ78星雲に帰っていくウルトラマンのような清々しさはありませんでした。

上原氏は、後番組のウルトラマンAでも何本か脚本を書くことになり、また平成に入ってからもウルトラシリーズに何度か参加していたりするので愛着があると勝手に思っていましたが、ウルトラマンが生まれる前から円谷プロの特撮作品に関わってきた身としては、玩具販促などの商業主義に呑まれてくウルトラマンの変化に付いていけなくなるのも頷ける話だな、と感じました。

最後に

「帰ってきたウルトラマン」の復活。
とても面白く、暇な時間はとにかく齧りつくように読んでいました。
番組の立ち上げから終わりまでが時系列でまとまっているので、読後は実際にテレビシリーズを全部観たときのような高揚感もありますが、画面から伝わってこない生みの苦しみのようなものをダイレクトに受けるので、かなり重たい内容でもあったと思います。

いまにはじまった話でもありませんが、とにかくこの本はかなりニッチなところを攻めています。
ただウルトラマンのテレビシリーズができていく過程をなぞると言っても、完全に裏方の話に徹しており、キャスティングやアクションについてはほとんど触れられていません。

脚本家が誰で、監督がどんな人で、そういうところがわからないと何が書いてあるのかチンプンカンプンかと思いますが、それでもとても面白い本であることは間違いありません。

私はまだ、このシリーズは”「ウルトラマン」の飛翔”しか読んでいませんが、他のシリーズも揃えているので、今から読むのが楽しみです。また、読み終わったら同じようにレビューを書きたいと思います。